ある瞬間に突然、何かに気づく体験は、人間にとって特別な意味を持つ。近年、そのような「一瞬の気づき」が人の思考や行動にどう影響するかを調べる研究が増えている。ある調査機関が60代以上の男女800人を対象に行った調査では、驚くべき結果が明らかになった。
調査では、「これまでの人生で、ある瞬間に強く心が動いた体験があるか」という質問に対し、回答者の92パーセントが「ある」と答えた。さらに、そのうちの78パーセントが「その体験が、その後の自分の考え方や生き方に大きく影響した」と述べている。この数値は、若い世代を対象にした別の調査と比べると、約20ポイント高い。年齢を重ねるほど、一瞬の体験の意味をより深く受け止める傾向があるわけだ。
次に、どのような場面でそのような体験が起きたかを尋ねたところ、最も多かったのは「自然の中にいたとき」で全体の43パーセントを占めた。続いて「大切な人との会話の中で」が31パーセント、「一人で静かに過ごしていたとき」が18パーセントだった。日常のふとした場面に、心が動く瞬間は潜んでいるといえるだろう。
一方、「その気づきを言葉で表現しようとしたか」という質問に対しては、60パーセント以上が「うまく言葉にできなかった」と回答した。心が強く動いた体験ほど、言語化が難しいという傾向が見られた。この点について、調査を担当した研究者は「言葉にしにくい体験こそ、その人の価値観や人生観に深く関わっていることが多い」と分析している。
この調査結果をもとに、今後の社会への示唆を考えると、いくつかの点が浮かび上がる。まず、高齢化が進む社会において、60代以上の人々が積み重ねてきた「気づきの体験」は、次の世代に伝える価値のある知恵になり得る。実際、調査対象者の65パーセントが「若い人にこの体験を伝えたいと思う」と答えており、世代間の対話への関心は高い。
また、デジタル技術が進歩し、情報があふれる社会では、一瞬の体験をゆっくりと味わう機会が減るおそれがある。調査でも、「最近、心が動く体験が減った」と感じている人が40パーセント近くに上った。この傾向が続けば、人々が直観的に何かを感じ取る力が弱まっていく可能性があると、研究者たちは指摘している。
今後は、日常の中で一瞬の気づきを大切にする環境づくりが、個人の豊かさばかりか、社会全体の活力にもつながるに違いない。長年の経験から得られた知恵を、次の世代へどう受け渡すかが、これからの社会の重要な課題の一つになるだろう。