大学の研究室で、経済学を専攻する田中と山本は卒業論文のテーマについて話し合っていた。二人は同じゼミに所属しているが、経済のあり方についての考え方はかなり違う。
「やっぱり今の経済システムには限界があると思う」と田中は言った。「格差はどんどん広がっているし、環境への負担も増える一方だ。成長を追い求めることをやめて、もっと持続可能な方向に転換すべきじゃないかな」
山本はノートから目を上げて、少し間を置いてから答えた。「その気持ちはわかるよ。でも、成長をやめたら雇用はどうなる?特に途上国の人たちにとって、経済成長は貧困から抜け出すための大切な手段でもあるわけだ」
田中は反論しようとしたが、山本の言葉が少し気になった。自分の主張が先進国の視点に偏っているかもしれないと、心のどこかで感じていたからだ。それでも田中は続けた。「協同組合のような仕組みなら、利益を一部の人に集中させずに、みんなで分け合うことができる。それが公正な社会への近道だと思う」
山本は静かにうなずきながらも、内心では「理想はわかるけど、規模を大きくするのは難しいんじゃないか」と思っていた。
翌日、二人は図書館で再び顔を合わせた。山本は昨日の会話を引きずっているようで、田中が席に着くなり口を開いた。
「昨日の話、もう少し考えてみたんだけど、協同組合の限界って、やっぱり競争力の問題だと思う。市場で勝ち残るには効率を上げないといけないし、そのためには規模も必要だ。小さな組織がバラバラに動いていたら、グローバルな市場では太刀打ちできないんじゃないかな」
田中はその言葉を聞いて、少しむっとした表情を見せたが、すぐに落ち着いた声で答えた。「でも、効率だけを追い求めた結果が今の格差じゃないの?経済の目的は豊かさを広く行き渡らせることであって、一部の企業が利益を独占することじゃないはずだ」
山本は黙って田中の顔を見た。議論に勝ちたいというよりも、田中の考えを本当に理解しようとしているような目つきだった。「じゃあ、効率と公正の両方を実現する方法って、具体的にどんなものがあると思う?」
田中は少し驚いた。批判ではなく、本音で問いかけていると感じたからだ。二人の議論は、対立から対話へと変わり始めていた。