「先生、スマートシティって結局どういうものなんですか?最近よく聞くんですが、正直よくわからなくて」と、大学生の由美が聞いた。
文化評論家の中村さんは少し考えてから答えた。「簡単に言うと、街中にセンサーやカメラをたくさん設置して、集めたデータを使って交通渋滞や電力の無駄をなくそうという考え方だよ。ゴミ収集の効率を上げたり、災害への対応を速くしたりすることもできる。理想だけ聞けば、すごく便利な未来の街に聞こえるよね」
「じゃあ、いいことばかりじゃないんですか?」
「そう単純じゃないんだ」と中村さんは少し声を落とした。「たとえば、街中のカメラがあなたの行動を常に記録しているとしたら、どう感じる?便利さのうえに、知らないうちに自分の情報が集められているわけだよ。それがどこに使われるか、誰が管理するか、住民には十分に説明されていないことが多い」
由美は黙って考え込んだ。
「それだけじゃない」と中村さんは続けた。「スマートフォンを持っていない高齢者や、デジタル機器が苦手な人は、こうした街のサービスをうまく使えないことがある。便利になるのは、機器を使いこなせる人たちだけかもしれない。そうなると、社会の格差がさらに広がりかねない」
「住民の意見はどうなるんですか?」
「それが一番の問題かもしれないね。計画を進める前に、住む人たちが本当に納得しているかどうかが大切なのに、実際には行政や企業が先に決めてしまうケースも少なくない。技術が進むことは悪くない。でも、誰のための街なのかを忘れてはいけないと思う」
由美はうなずきながら、「便利さと引き換えに失うものがあるかもしれない、ということですね」とつぶやいた。
中村さんは微笑んで言った。「そう。それに気づいたなら、もうただの利用者じゃなくて、社会を考える一人になれると思うよ」