春のある朝、高校二年生の美咲は、ずっと前から欲しかった白いワンピースをついに買った。前の週末、母と一緒に商店街を歩いていたとき、ショーウィンドウに飾ってあるそのワンピースを見て、心が止まったような気がした。「これだ」と思った。母に頼んで試着させてもらうと、鏡の中の自分がいつもとは違う人のように見えた。その日は買わずに家に帰ったが、頭の中からそのワンピースが消えなかった。
次の日も、その次の日も、美咲はそのワンピースのことを考えながら学校へ行った。「もし誰かに買われてしまったら」と思うと、胸がドキドキした。三日後、お小遣いを全部集めて、もう一度その店へ走った。ワンピースはまだそこにあった。美咲はすぐにレジへ持っていき、大切に袋に入れてもらった。家に帰る電車の中で、袋を両手でしっかり抱えながら、自然に笑顔になっていた。
翌朝、美咲は朝早く目が覚めた。いつもより三十分も早い時間だった。着替える前に、もう一度ワンピースを袋から出して、ベッドの上に広げた。白くてやわらかい布が朝の光に輝いているように見えた。ゆっくりと着てみると、昨日の試着のときと同じように、鏡の中の自分がいつもとは少し違って見えた。なんだか自信が持てるような、不思議な気持ちになった。
学校に着くと、クラスメートの由香がすぐに気づいた。「美咲、その服、すごくかわいい!どこで買ったの?」と聞いてきた。美咲は少し恥ずかしかったが、うれしくて思わず笑った。「商店街の小さなお店で見つけたんだ」と答えながら、自分でも不思議に思った。いつもは人に話しかけるのが少し苦手な美咲が、その日は自分から友達に話しかけることができた。
放課後、美咲は日記にこう書いた。「新しい服を着ると、なぜか気持ちが明るくなる。体が軽くなったような感じがして、いつもより元気に動ける気がする。服は体を守るためだけじゃなくて、気持ちを変える力もあるんだと思った。これからも、自分が好きだと思える服を大切に選んでいきたい。」
その日から美咲は、服を選ぶときに値段だけでなく、着たときにどんな気持ちになるかを大切に考えるようになった。小さな変化だったが、美咲にとって大切な気づきになった。