自然の時間的秩序が人間の精神構造に与える影響を検証するにあたり、国立人文科学研究所は2019年から2022年にかけて、日本・フランス・韓国の成人計2,400名を対象とした比較調査を実施した。驚くべきことに、四季の移ろいを「人生の節目と重なるものとして意識的に捉えている」と回答した日本人被験者の割合は78.3%に達し、フランスの41.2%、韓国の53.7%を大きく上回った。この数値は、自然の循環的リズムへの感受性が文化的土台と密接に連動していることを示唆している。さらに詳細なデータを精査すると、日本人回答者の中でも50代以上の層において当該傾向が顕著であり、同年代の91.6%が「季節の変化が生死の感覚を意識させる契機となる」と応答した。一方、20代では同割合が47.8%にとどまっており、世代間の乖離が鮮明に浮かび上がっている。こうした統計的差異は、単なる個人的感性の問題に還元されるべきではなく、季節行事の継承度や自然環境との接触頻度といった社会構造的変数との交絡を考慮に入れた上で慎重に解釈される必要があると、研究チームは指摘している。
前掲の比較調査に対し、文化人類学者の立場から批判的な再検討を試みた論考が2023年に発表され、学術界に一石を投じた。同論考は、自然の循環を人生観の核心に据えることへの過度な礼賛は、経験的データの恣意的解釈に基づいている可能性が高いと主張する。具体的には、78.3%という数値が「意識的に捉えている」という曖昧な設問に依拠している点を問題視し、回答者が社会的期待に沿う形で応答するバイアス、いわゆる社会的望ましさバイアスの影響を排除できていないと指摘する。加えて、自然の循環を肯定的に受容する傾向が強い集団ほど、変化への適応能力が低く、閉塞的な現状維持志向に陥りやすいという逆説的なデータも提示されている。調査対象となった都市部在住者のうち、「季節の循環に安らぎを覚える」と回答した層の62.4%が同時に「将来への変革意欲が低い」と自己評価しており、自然観と社会的停滞との相関関係が示唆されている。したがって、循環的時間観を普遍的な人生観の基盤として称揚することには、方法論的にも実証的にも相当の慎重さが求められると論じている。