新型コロナウイルスの流行期に、日本政府は接触確認アプリを導入した。このアプリは、感染者と近い距離で一定時間以上過ごした人に通知を送る仕組みであり、感染の広がりを早期に把握するうえで有効だとされた。政府の調査によれば、アプリの利用者が増えるほど、感染経路の特定にかかる時間が短縮される傾向が見られた。こうした結果をふまえると、一定の個人情報を収集することは、多くの人の命を守るために不可欠だと言えるわけだ。支持者は、収集されるデータは匿名化されており、特定の個人を識別できない形で管理されていると主張する。また、緊急時においては、公共の利益を守るために個人の権利が一時的に制限されることはやむを得ないという意見も根強い。実際、感染症対策の分野では、個人情報の活用が封じ込めの速度に直接影響するというデータが複数の研究で示されている。こうした観点から見れば、安全を守るための情報収集は、適切な管理のもとで許容されるべきだという立場は、一定の合理性を持っていると言えるだろう。
接触確認アプリの運用データを分析した複数の報告書によれば、アプリが実際の感染防止にどれほど貢献したかは、必ずしも明確ではない。利用率が低かったことに加え、通知を受けた人の行動変容につながった割合も限られていたという調査結果がある。一方で、アプリの導入によって、位置情報や行動履歴が将来的に別の目的で使われるのではないかという不安を感じた人は少なくなかった。批判的な立場の研究者たちは、緊急時を理由に一度認められた情報収集の範囲は、その後も縮小されにくいという傾向を指摘している。つまり、例外的な措置が常態化するリスクがあるわけだ。さらに、収集されたデータが本当に安全に管理されているかどうかを、一般の市民が確認する手段は限られている。透明性が十分でない状況では、政府や機関への信頼だけを根拠に個人情報の提供を求めることは、権利の侵害につながりかねないという意見も見られる。こうしたデータと指摘をあわせて考えると、安全を理由とした情報収集には、明確な基準と監視の仕組みが必要だという結論が導き出される。