脱炭素化という世界的潮流が加速するにつれ、再生可能エネルギーへの移行はもはや選択の問題ではなく、時代の必然として各国政府・産業界に受け入れられつつある。しかしながら、このエネルギー転換の恩恵が社会全体に均等に及ぶかといえば、実態はほど遠い。深層取材を重ねるなかで浮かび上がってきたのは、転換の波に乗り遅れた地域と産業が、構造的な置き去りを余儀なくされているという厳然たる現実である。
石炭採掘や火力発電に長年依存してきた地方都市では、施設閉鎖に伴う雇用喪失が急速に進んでいる。ある自治体では、基幹産業であった火力発電所の廃止後、関連業者を含む数千人規模の労働者が職を失い、地域経済は深刻な停滞に陥った。行政は再就職支援プログラムを設けたものの、再生可能エネルギー分野が求める技術的素養と、旧来の重工業従事者が有するスキルとの間には大きな隔たりがあり、円滑な労働移転は容易に実現しなかった。こうした現象は一地域の特殊事例ではなく、エネルギー転換を急ピッチで進める国々に共通して見られる構造的矛盾にほかならない。
一方、エネルギー転換を推進する側は、長期的には雇用の純増が見込まれると主張する。太陽光・風力関連産業の急成長が新たな雇用を創出し、化石燃料産業の縮小による損失を補って余りあるというのがその論拠である。この見解は統計的裏付けを欠くわけではないが、問題の核心はマクロな数字の増減にあるのではなく、転換の恩恵と負担が誰に帰属するかという分配の公正性にある。新興の再生可能エネルギー産業が都市部や高学歴層に雇用を集中させる一方で、旧産業地帯の労働者が取り残されるという非対称性は、数字の上での「純増」によっては到底覆い隠せない。
さらに見過ごせないのが、送電インフラの整備をめぐる地域間格差である。再生可能エネルギーの大量導入には、広域にわたる送電網の抜本的な刷新が不可欠であるにもかかわらず、その整備費用の負担構造は依然として不透明なままだ。恩恵を受ける都市部が費用を応分に負担せず、発電施設の立地を強いられる地方が過重な負担を担うという構図が固定化しつつある。
脱炭素化の目標それ自体を否定することは、今日の科学的知見に照らせば非合理である。しかし、転換の速度と方法が既存産業に携わる人々の生活基盤を一方的に破壊するものであるならば、その正当性は根底から問い直されなければならない。公正な移行を実現するためには、新産業への投資と並行して、取り残された地域・労働者への手厚い移行支援策を制度として確立することが、政策立案者に課せられた喫緊の責務である。転換の恩恵を一部のみが享受し、その代償を弱者が引き受けるような構造を放置することは、エネルギー政策の失敗であるのみならず、社会的正義の観点からも断じて容認できない。