今、私は毎朝五分間、目を閉じて静かに座る習慣を続けている。呼吸に意識を向け、今この瞬間だけを感じるその時間は、一日の中でとても大切なものになった。しかし、こうした習慣を始めたきっかけは、数年前の苦しい経験にある。
三年前、私は会社でプロジェクトリーダーを任された。チームをまとめながら成果を出さなければならないプレッシャーは、想像以上に大きかった。毎晩遅くまで仕事をし、休日も仕事のことが頭から離れなかった。次第に眠れない夜が続くようになり、職場でも些細なことで気持ちが乱れるようになった。
ある日、会社の研修でマインドフルネスという言葉を初めて耳にした。講師は「過去や未来ではなく、今ここにある自分の状態に気づくことが大切だ」と説明した。正直なところ、当時の私はその言葉をあまり真剣に受け止めなかった。「ただ座っているだけで何が変わるのか」と思ったのだ。
研修が終わった後も、しばらくは何も試さなかった。ところが、ある夜、眠れずに天井を見つめていたとき、ふと研修で教わった呼吸の方法を思い出した。吸って、止めて、ゆっくり吐く。それを繰り返すうちに、少しずつ体の力が抜けていった。そのとき初めて、自分がいかに緊張し続けていたかに気づいた。
それから少しずつ、朝の時間を使って静かに座る練習を始めた。最初は三分間だけ。何も考えようとせず、ただ呼吸だけに注意を向ける。うまくいかない日も多かった。仕事の心配や他のことが次々と頭に浮かんできた。しかし、そのたびに「今は呼吸だけ」と自分に言い聞かせ、意識を戻すことを繰り返した。
三か月が過ぎた頃、変化を感じるようになった。感情的になりやすかった自分が、少し落ち着いて物事を考えられるようになったのだ。職場での判断も、以前より冷静にできるようになった気がした。同僚から「最近、余裕が出てきたね」と言われたときは、少し照れくさかったが、うれしかった。
今振り返ると、あの苦しかった時期があったからこそ、自分の内側に目を向けることの大切さを学べたのだと思う。当時は「ただ座るだけ」と軽く見ていたことが、実は自分の心を整える上でとても有効な方法だったわけだ。日本では昔から、座禅や茶道など、静かに自分と向き合う文化がある。マインドフルネスもそうした考え方と通じるものがあると、今は感じている。
毎朝の五分間は、今でも変わらず続いている。忙しい日も、気分が乗らない日も、とにかく座ってみる。それだけで、一日の始まりが少し違って感じられる。小さな習慣が、自分の生活を支えてくれているのだと、今は確信を持って言える。