ゲノム医療研究倫理指針(案内文)
本指針は、ヒトゲノムを対象とした医学的介入に係る研究および臨床応用の適正な推進を目的として策定されたものである。近年、塩基配列の精密な改変を可能とする技術が急速に普及しつつあるものの、その応用範囲は依然として医療倫理上の慎重な検討を要する段階にある。国内における関連法整備が十分に整っているとは言い難い現状を鑑み、本指針は学術団体による自主規制の枠組みとして機能することを旨とする。
本指針が適用される研究領域は、体細胞を対象とした疾患治療的介入、生殖細胞系列への介入、ならびに胚を用いた基礎研究の三分野に大別される。このうち、体細胞レベルの治療的介入については、既存の倫理審査体制のもとで条件付き許容とする。一方、生殖細胞系列への介入および着床前胚へのゲノム改変は、次世代への遺伝的影響が不可逆的であることを理由に、原則として禁止事項とする。ただし、致死的遺伝性疾患の予防を目的とし、かつ代替手段が存在しないと倫理審査委員会が認定した場合に限り、厳格な条件下での例外的実施を妨げるものではない。
「治療」と「強化」の区別は、本指針における最も根幹的な判断軸である。疾患の予防・治療を直接の目的とする介入は治療的行為として位置付けられるが、身体能力・認知機能・外見的特徴等の向上を意図した介入は強化行為とみなし、いかなる状況においても許容されない。両者の境界が曖昧となる事例については、倫理審査委員会が個別に判定を下すものとし、その判断は最終的なものとする。
ゲノム医療研究倫理規程に関する通知文
関係各位
昨年度に実施されたゲノム医療研究の実態調査の結果、国内研究機関における倫理審査の適用状況に関して以下の傾向が明らかとなった。本通知は、当該調査結果を踏まえた規程の運用改善を周知するものである。
調査によれば、体細胞を対象とする治療的介入研究のうち、倫理審査委員会への申請が適切に行われていた事例は全体の約74%にとどまり、残余の26%においては審査手続きの不備または未申請が確認された。さらに、生殖細胞系列への介入を伴う研究については、規程上の禁止事項に該当するにもかかわらず、計画段階で当委員会への事前照会を行わないまま進行していた事例が3件報告されており、これらはいずれも即時停止措置の対象となった。
遺伝的強化を目的とした研究申請については、当該期間中に7件の申請が受理されたが、全件が審査の結果却下された。申請却下の主たる理由として、治療目的との区別が不明確である点、および社会的公平性を損なうおそれがある点が挙げられた。遺伝的格差の拡大を招きかねない研究は、科学的妥当性の有無を問わず、本規程の定める倫理的基準に照らして許容されないことを改めて明示する。
本通知の受領をもって、各研究機関は所属研究者への周知徹底を義務付けられるものとする。違反が認められた場合、研究資金の停止・返還請求、ならびに研究者登録の取消しを余儀なくされる可能性がある。
ゲノム医療研究倫理審査申請書(記載要領)
本申請書は、ゲノム医療研究倫理規程に基づく審査を受けようとする研究者が提出すべき書類の記載要領を定めたものである。申請者は、以下の各項目を漏れなく記載したうえで、所属機関の倫理審査委員会を経由して提出すること。
【第一項:研究の目的と分類】研究が治療的介入に該当するか強化的介入に該当するかを明確に区分し、その根拠を科学的文献および臨床データをもって説明すること。境界事例に該当すると自己判断する場合は、その旨を明示したうえで委員会の予備審査を事前に申請することが望ましい。
【第二項:対象および介入の範囲】介入の対象が体細胞であるか生殖細胞系列であるかを特定し、胚を用いる場合はその提供経緯および同意取得の手続きを詳述すること。生殖細胞系列への介入を含む研究については、例外的許容要件を満たすことを立証する資料を別途添付すること。
【第三項:リスクと便益の評価】想定されるリスクを定量的に評価するとともに、当該研究によって得られる医学的・社会的便益との比較考量を行うこと。遺伝的格差の拡大など、社会的公平性に対する潜在的影響についても分析を加えること。
記載内容に虚偽または重大な不備が認められた場合、申請は却下されるとともに、研究者は当規程に定める懲戒手続きの対象となる。申請者は本要領を熟読のうえ、誠実かつ正確な記載を徹底すること。