人は、自分の価値観が揺らぐ瞬間を、あらかじめ予測することができない。それは突然やってきて、静かに、しかし確実に、その人の世界の見方を変えていく。
私が取材を続ける中で出会った人々の話は、そのことを改めて教えてくれた。たとえば、ある40代の会社員の男性は、東日本大震災の直後に被災地を訪れたことで、仕事に対する考え方が大きく変わったと語った。「それまでは、出世や収入が一番大切だと思っていました。でも、あの光景を目にして、そういった考えがひっくり返された気がしました」と彼は言う。彼はその後、会社を辞め、地域の復興支援に携わるNPOに転職した。
こうした変化は、震災という大きな社会的出来事によってのみ起きるわけではない。身近な人の死、長期にわたる病気、あるいは異文化との出会いなど、きっかけはさまざまだ。ある研究者によれば、価値観の転換には共通した段階があるという。まず、それまで信じていた考え方が通用しなくなる「揺らぎの段階」がある。次に、混乱しながらも新しい見方を模索する「問い直しの段階」が続く。そして最終的に、以前とは異なる視点から物事を捉え直す「再構築の段階」に至るとされる。
ただし、この過程は必ずしも順調には進まない。多くの人が、揺らぎの段階で強い不安や喪失感を経験する。「自分が信じてきたものが崩れる感覚は、非常につらいものです」と、心理士の一人は説明する。それでも、その不安を乗り越えた先に、より深みのある価値観が生まれることが多いという。
一方で、注意すべき点もある。転機を経験したからといって、誰もが必ずしも前向きな変化を遂げるわけではない。変化を受け入れられず、以前の価値観にしがみつく人もいれば、変化に圧倒されて心を閉ざしてしまう人もいる。転機が「成長の機会」になるかどうかは、周囲のサポートや本人の向き合い方によっても大きく左右されるわけだ。
取材を通じて感じたのは、価値観の変容とは、単に「考えが変わる」ということではないということだ。それは、自分がどう生きるかという問いに、もう一度真剣に向き合う作業でもある。そして、その作業は一度きりではなく、人生の中で何度も繰り返されるものかもしれない。転機とは、人が自分自身を問い直すための、大切な節目なのだろう。