「ねえ、就活のためにスーツ買いに行ったんだけど、値段見てびっくりした。去年より全然高くなってる気がして」と、莉子はため息をついた。
友人の大輝は少し考えてから答えた。「わかる。俺も先月リクルートバッグ買ったけど、思ってたより出費がきつかった。バイト代は変わってないのに、なんか毎月お金が足りなくなってくる感じ」
莉子はうなずきながら続けた。「うちの親も、給料は少し上がったって言ってたけど、全然楽にならないって言ってた。物の値段がそれ以上に上がってるから、結局手元に残るお金は減ってるんだって」
「そういうことか」と大輝はつぶやいた。頭ではわかっていても、実際に自分が就職したあとのことを考えると、なんとなく不安がこみ上げてくる。
「就職できたとしても、給料が上がっても生活が楽になるとは限らないってことだよね」と莉子は静かに言った。大輝は何も答えなかった。窓の外に目をやりながら、来年の自分の姿をぼんやりと想像しようとしたが、うまくイメージできなかった。
「2010年代のころって、物価がほとんど上がらなかったって本当?」と健太は授業の帰りに聞いた。
隣を歩く先輩の奈緒は少し笑いながら言った。「そうそう。物が安いのは確かだったけど、給料もほとんど上がらなかったんだよ。だから別に豊かになった感じもしなかったって、うちの親が言ってた」
「今は逆だよね。物価がどんどん上がってるのに、給料はそこまで追いついてない感じがする」と健太は言った。
奈緒は少し立ち止まって答えた。「時代が違っても、結局どちらの時期も生活が楽じゃなかったっていうのは同じなんだよね。安定してたけど変わらなかった時代と、変わってるけど追いつかない今と」
健太はその言葉を聞いて、なんとなく複雑な気持ちになった。どちらの時代も、自分たちが働き始めるころには、もっとよくなっているかもしれない。でもそれは、願望でしかないかもしれないとも思った。奈緒の横顔を見ると、彼女も同じことを考えているような表情をしていた。二人はしばらく無言で歩き続けた。