日本では現在、同性のカップルが法律上の夫婦と同じ権利を持てない状況が続いている。200以上の自治体がパートナーシップ証明書を発行しているものの、それは国が認めた法的な権利ではない。税制上の優遇措置も、相続権も、病院での緊急時の同意権も、多くの場面で同性カップルには認められていないのが現実だ。
東京都内に住む田中さん(仮名)は、10年以上同じ相手と生活を共にしてきた。しかし2年前、パートナーが急病で入院した際、病院側から「ご家族ではないため、手術の同意書にはサインできません」と告げられた。法的な婚姻関係がないという理由だけで、長年連れ添った相手の命に関わる決断に加われなかったのだ。田中さんは「制度がなければ、私たちの関係は他人と同じ扱いになる」と語った。
こうした問題は医療の場だけにとどまらない。パートナーが亡くなった場合、法律上の配偶者であれば財産の一部を受け取る権利があるが、同性カップルにはその権利が保障されていない。遺言書を作成することである程度は備えられるが、手続きが複雑なうえに費用もかかる。制度的なサポートがない分、個人が自力で対応しなければならない負担は大きい。
養子縁組についても状況は厳しい。同性カップルが共同で子どもを育てたい場合、法律上は一方の親しか認められないことが多い。もう一方の親は、法的には子どもと赤の他人という扱いになってしまう。これは子どもの権利という観点からも問題だと、専門家の間では指摘されている。
一方で、社会の意識は少しずつ変化しつつある。複数の地方裁判所が、同性婚を認めない現行の法律について「憲法が保障する平等に反する状態にある」という判断を示している。こうした司法の動きは、立法府に対する一定の圧力になっているわけだ。
しかし国会での議論は遅々として進まない。政党間の意見の違いが大きいことに加え、「家族の形が変わる」という根拠の薄い不安を持つ人も少なくないからだ。実際には、同性カップルに法的権利を認めることが、他の家族の権利を損なうわけではない。問題は制度の欠如そのものにあり、それによって不利益を被り続けているのは、ごく普通の生活を送る人々だ。
法制度と社会の意識は、互いに影響し合いながら変わっていく。制度が整えば、それが社会に「多様な家族のあり方が認められている」というメッセージを送ることになる。逆に、意識が変わらなければ制度の整備も進まない。この双方向の関係を踏まえれば、今求められているのは国レベルでの具体的な法的保護の整備であり、その議論を先送りにし続けることは、もはや許されない段階に来ていると言えるだろう。