「まさか自分が70歳を過ぎても働くことになるとは、思っていませんでした」。都内に住む35歳の会社員、田中久美さんはそう話す。彼女が心配しているのは自分の老後だけではない。両親の生活設計を見直す必要が出てきたことで、子育て中の家計にも大きな影響が生じているという。
厚生労働省が昨年発表した調査によると、現在30代の人が65歳を迎える時点での平均余命は、男性で約22年、女性で約27年に達すると推計されている。つまり、多くの人が90歳前後まで生きることが見込まれるわけだ。こうした長寿化を背景に、従来の「教育→仕事→引退」という三段階の人生モデルが、もはや現実に合わなくなってきていると専門家は指摘する。
ある民間調査機関が今年3月に実施した調査では、30代から40代の親世代を対象に、子どもの将来設計に関する意識を聞いた。回答者1,200人のうち、約68%が「子どもには大学卒業後も継続的に学び直す機会が必要だ」と答えた。一方で、「その費用を十分に準備できる自信がある」と回答した人は全体の29%にとどまった。準備できないと感じる理由としては、「自分たちの老後資金との両立が難しい」という回答が最も多く、全体の54%を占めた。
同調査ではさらに、定年後の親の生活費を支援している30代・40代の割合も明らかになった。現時点で親への経済的支援を行っている人は全体の約23%に上り、5年前の同様の調査と比べて約8ポイント増加していた。子育て費用と親の生活支援が重なる、いわゆる「ダブルケア」の状況に置かれている家庭が増えているといえる。
田中さんも、まさにその状況にある一人だ。「子どもの教育費はこれから本格的にかかってくるのに、親の医療費の負担も年々増えています。自分たちが老後にどれだけ働けばよいのかも、正直わかりません」と彼女は率直に語る。
こうした状況を受けて、企業や自治体のなかには、社員や住民が年齢を問わず新しいスキルを身につけられる学習支援制度を整える動きが出てきている。ある企業では、40代以上の社員を対象に、業務とは異なる分野の資格取得を支援する制度を導入した結果、社員の仕事への意欲が高まったというデータも報告されている。
長く生きる時代において、人生の設計を一度決めたら終わりとする考え方は通用しなくなりつつある。子どもを育てながら、親を支え、自分自身の将来も見据えなければならない30代にとって、社会全体の仕組みの見直しが急務となっているといえるだろう。