デジタル社会の深化とともに、国家の根幹を支える重要インフラへのサイバー攻撃が急増している。内閣サイバーセキュリティセンターの集計によれば、電力・水道・金融といった基幹システムを標的とした不正アクセスの件数は、2018年から2023年の5年間で約3.7倍に達し、その背後には国家の関与が疑われる事案が全体の4割以上を占めるとされる。こうした数値は、サイバー空間における脅威が単なる犯罪行為の次元を超え、国家安全保障上の喫緊の課題として位置づけられるべき段階に達していることを端的に示している。
注目すべきは、攻撃の手口が年々精緻化している点である。従来型のマルウェアによる侵入に加え、近年ではサプライチェーンの脆弱性を突いた間接的な侵害や、長期潜伏型の標的型攻撃が顕著に増加している。防衛省が2023年度に実施した実態調査では、防衛関連企業の約6割が過去3年以内に何らかの不審なアクセスを経験していたにもかかわらず、そのうち行政機関へ報告したのは2割に満たなかったことが判明した。この報告率の低さは、官民間の情報共有体制が依然として形式的なものにとどまっている実態を浮き彫りにしている。
翻って国際的な動向を見れば、NATOや欧米主要国においては、官民が一体となった脅威情報のリアルタイム共有を法的に義務付ける枠組みの整備が進んでいる。翻って日本においては、法整備の遅滞と縦割り行政の弊害が相まって、実効性ある対処体制の構築を阻んできた経緯がある。2022年末に改定された安全保障関連の政策文書において能動的な防御措置の導入が明記されたことは一定の前進ではあるものの、制度設計と現場実装の間には依然として大きな乖離が存在すると言わざるを得ない。サイバー防衛の実効性を高めるためには、法制度の整備のみならず、官民双方における人材育成と情報共有の実質化が不可欠であるという点で、専門家の見解は概ね一致している。