かつて、若者が海外へ出ることは一種の通過儀礼のように考えられていた。昭和の時代には、企業も国も「外を知らない者に仕事はできない」という考えを持ち、海外勤務や留学を積極的に奨励した。実際、1980年代後半から1990年代にかけて、海外へ留学する日本人の数は年々増加し、ピーク時には年間約8万人を超えたという記録も残っている。当時の若者は、言葉の壁があっても積極的に外国へ出向き、異なる文化や価値観に触れることを大切にしていた。しかし、2000年代に入ると状況は大きく変わり始めた。留学者数は減少傾向に転じ、2010年代には半数近くまで落ち込んだ時期もあったとされる。背景には、就職活動の早期化や経済的な負担の増大があると分析されている。また、インターネットの普及により、海外へ行かなくても情報が手に入る時代になったことも、若者の外向きの意欲を弱めた一因と見られている。昔ながらの「苦労して外の世界を知る」という精神は、今の若い世代には伝わりにくくなっているのかもしれない。
近年、政府や大学は国際的に通用する人材を育てるための施策を次々と打ち出している。奨学金制度の拡充や短期留学プログラムの整備などが進んだ結果、2010年代後半から留学者数は再び回復傾向を示すようになった。文部科学省の調査によれば、2019年度の海外留学者数は約11万人に達し、かつてのピークを上回ったとされる。しかし、その内容を詳しく見ると、1年以上の長期留学は依然として少なく、数週間程度の短期プログラムが増加の大部分を占めているという。語学力の向上だけを目的とした短期滞在では、現地の人々と深く関わる機会が限られるため、真の意味での異文化への適応力が身につくかどうかは疑問が残る。長年教育に携わってきた立場から見れば、数字が増えたことを単純に喜ぶのは早計ではないかと感じる。大切なのは、どれだけの期間・深さで外国の文化や人と向き合ったかという質の問題である。今後は量だけでなく、留学の中身を問い直す議論が必要になるに違いない。