「ねえ、田中くん、最近どんな感じ?」
大学の食堂で、佐藤みかは向かいに座った田中けんじに声をかけた。けんじはトレーを置きながら、少し間を置いた。
「就活、やばいよ。もう三十社以上落ちた。」
みかは「そうか」とだけ言って、スプーンを持ったまま止まった。彼女自身も似たような状況だったが、口には出さなかった。
「おじいちゃんに相談したら、『昔は頑張れば何でもできた』って言われてさ。」
けんじは笑いながら言ったが、その目は笑っていなかった。
「わかる。うちのおばあちゃんも同じこと言う。高度成長期の話ばかりするんだよね。」
「あの時代とは全然違うじゃん、今は。でも、否定するのも申し訳なくて。」
みかはうなずいた。けんじの言葉の裏に、もっと深いものがあるような気がした。
「昔の人が作ったルールや仕組みで、今の私たちが生きなきゃいけないって、なんか変だと思わない?」
けんじは静かにそう言った。みかはしばらく考えてから、ゆっくり口を開いた。
「でも、あの人たちも一生懸命生きてきたんだよ。ただ、時代が違うから、見えている景色が違うんだと思う。」
「そうかもしれないけど、年上の人の意見ばかりが通って、若い人の声が届かないって感じるんだよね。選挙に行っても、数が少ないから負けるし。」
みかはけんじの言葉を受け止めながら、自分も似たような焦りを感じていることに気づいた。しかし、彼女はすぐには同意しなかった。
「それは本当にそうだと思う。でも、私たちが怒るだけじゃ何も変わらないと思う。おじいちゃんやおばあちゃんと話すの、面倒くさいかもしれないけど、話してみたら意外とわかり合えることもあるんじゃないかな。」
「試したことある?」
「うん。先月、おばあちゃんと二時間くらい話したよ。最初は全然かみ合わなかったけど、最後はお互いに泣いてた。」
けんじは少し驚いた顔をした。みかは続けた。
「おばあちゃんも、若い私たちが心配だって言ってた。ただ、心配の仕方が違うだけで。」
けんじはしばらく黙って、冷めたラーメンを見つめていた。
「…話してみようかな。」
その声は小さかったが、さっきより少し軽くなったようだった。みかは何も言わず、ただ小さくほほ笑んだ。食堂の外では、春の風が静かに吹いていた。