田中さんと山本さんは、同じIT会社に勤めるエンジニアだ。ある日の昼休み、二人は会社の食堂でお茶を飲みながら話していた。
山本さんが着ていたシャツには、青と白の細かい模様がプリントされていた。田中さんはそれをじっと見てから、静かに口を開いた。
「そのシャツ、いいね。どこで買ったの?」
「ああ、これ?先週の週末に買ったんだ。新しいブランドのやつで、日本の昔の染め方をもとにした柄らしいよ。」山本さんはシャツの袖を少し引っ張りながら言った。
田中さんは少し間を置いた。「へえ、そうなんだ。」その声には、どこか引っかかるものがあるように聞こえた。
「何か気になることがある?」山本さんが首を傾けて聞いた。
「いや……正直に言うと、最近ちょっと考えることがあってね。」田中さんはカップをテーブルに置いた。「そういう昔の日本の柄が、今の服のデザインにたくさん使われているのは知ってるよね。藍色の染め物とか、昔から伝わる植物の柄とか。」
「うん、流行ってるよね。かっこいいと思うけど。」
「それはわかる。でも、その柄を作った職人さんたちのことを、今の人たちはどのくらい知ってるんだろうって思って。」田中さんは少し声を落とした。「たとえば、藍で布を染める技術は、何百年も前から職人さんたちが少しずつ改良して守ってきたものじゃないか。それが今は、ただのおしゃれな模様として服に使われてる。」
山本さんはしばらく黙っていた。「…確かに、そういう背景は考えたことがなかったな。」
「俺もエンジニアとして新しい技術を作ることが好きだ。でも、新しいものを作るときには、前の人たちが積み上げてきたものをちゃんと理解した上でやらないと、大切なものを失うこともあると思うんだよね。服のデザインも同じじゃないかと思って。」
山本さんはもう一度シャツを見た。「…このブランドが、職人さんたちのことをちゃんと伝えてるかどうか、調べてみようかな。」
「そうしたら、もっとそのシャツが好きになれると思うよ。」田中さんは初めて少し笑った。
食堂の外では、春の風が静かに吹いていた。