留学生のアミラは、ホームステイ先の田中家での夕食中に、ふと気になったことを口にした。
「田中さん、お父さんのご両親はどちらに住んでいらっしゃるんですか?」
田中は少し間を置いてから答えた。「二人とも、電車で一時間ほどのところに一人ずつ住んでいるよ。」
アミラは驚いた様子で「一人ずつ?」と繰り返した。彼女の国では、祖父母が子どもの家族と一緒に暮らすのは当たり前のことだった。高齢になれば、家族が面倒を見るのが当然だという考え方が、社会全体に根付いていたからだ。
田中は、アミラの表情を見て何かを察したように、静かに続けた。「こっちでは、それぞれが自分の生活を大切にするって感じかな。もちろん、何かあればすぐに駆けつけるけど。」
アミラはうなずきながらも、心の中では少し寂しいような気持ちになった。それが「自立」なのか「距離」なのか、彼女にはまだうまく区別がつかなかった。田中の言葉は穏やかだったが、アミラにはどこか言い訳のように聞こえた。
大学の講義が終わった後、留学生のカルロスと同級生の佐藤は、キャンパスのベンチに並んで座っていた。
「佐藤は、将来、親と一緒に住むつもりある?」とカルロスが聞いた。
佐藤は少し考えてから「うーん、難しいな。一緒に住むと、お互いに気を使うじゃないか。」と答えた。
カルロスは首をかしげた。「気を使うって、家族なのに?」彼の感覚では、家族とは助け合うものであり、気を使うという発想自体が不思議だった。
「そういう感覚、俺にはよくわからないな」とカルロスは正直に言った。「うちでは、親が年を取ったら子どもが一緒に住んで支えるのが普通だよ。それが家族ってものだと思ってた。」
佐藤はそれを否定するわけでもなく、「それはそれで大切な考え方だと思うよ」と穏やかに返した。しかし、その後しばらく黙ったまま空を見上げていた。カルロスには、佐藤がどこかうしろめたさを感じているように見えた。それとも、ただ疲れているだけなのかもしれない。カルロスには、その沈黙の意味がまだつかめなかった。